from 西野浩輝

仕事柄、人の話し方には無意識で注目してしまいます。

「この人うまいなぁ。なんでだろう?」
「この人、ちょっと残念。もっとこうしたらうまくできるのに」

といった風に。

完全に職業病ですね。

先日、娘の学校の先生の話を聞きながら、「話し方」に対する膨大な分析メモを書いている私を見て、妻が呆れていました(笑)。

日々そういった教材が世の中にはたっぷりあるのですが、なかでもテレビタレントの話し方は学びの宝庫です。

たくさんの話し上手のなかで、ピカイチの語り手だと私が思う1人が古舘伊知郎さんです。

ピカイチの語り手「古舘伊知郎」さん

元テレビ朝日のアナウンサーであり、現在でも様々な番組で引っ張りだこで、大学の客員教授までされている古舘さんのプロフィールに関しては、これ以上
の説明は不要でしょう。

彼の話には、とにかく引き込まれます。しかも話し始めてあっという間にです。

なぜそこまで聞き手を魅了するのか?

私なりの分析コメントを全部書くとおそらく何千字にも及ぶと思うので(笑)、ここでは特筆するポイントをサマリーして以下にご紹介しましょう。

私は、プレゼンテーションの主要要素をコンテンツ(内容)、ストラクチャー(構成)、デリバリー(話し方)という3要素に分けてモデル化しているのですが、彼はそのどれを取っても一級品です。

古舘伊知郎さんのコンテンツの特長

まず、コンテンツに関して秀でている点の1つは、着眼点です。

ありきたりの退屈な題材でさえ、彼にかかれば面白い話に早変わりします。「おぉ、そういう観点で斬るか?!」と思わず膝を打つほどです。

例えば、「すべらない話」というテレビのトーク番組に出演したとき。

古舘さんは「『1日おき』と『1日ごと』の『おき』と『ごと』の違いはあるのか、ないのか?」といったテーマで語りました。

おそらく普通の人がこのような「言葉の語源」について語れば、退屈で小難しいだけの話になるでしょう。なのに、彼はユニークな例を挙げて「確かにそれは盲点だった!」と思わせる気づきをくれたり、言語学者と直接やり合ったエピソードなどを交え、見事に「すべらない」話に転化していました。

もう1つは、言語化力

物事の本質を捉え、それを「手垢のついてない言葉」で表現するのが上手いと言えます。

伝説の天才F1ドライバーである、故アイルトン・セナ氏を「音速の貴公子」と呼んで、一瞬でイメージを喚起させたのはその典型です。

ストラクチャーにおける工夫

次にストラクチャー。

話の論理構成が分かりやすいのはもちろんのことですが、さらに注目して欲しいのが、聞き手の心理を読んだ流れの作り方です。

「どう盛り上げていくと、聞き手がワクワク、ドキドキするか?」「聞き手の期待をどこで裏切ることで、ハッとさせて心を掴むか?」を周到に考えて、話を組み立てています。

まさに「策士だな」とつくづく感じさせてくれます。

最大の武器はデリバリー

最後が、デリバリーです。

アナウンサーだけあって、ここはお手のものです。内容に合わせて、声色や表情、間の取り方等を見事に使い分けています。

少し例を挙げると、

・注目させたい言葉の直前で、長めの「じらしの間」を取る
・大事なキーワードをあえて声を「ひそめて」言う
・苦悩の表情の直後の大きな笑顔で「安堵感」を演出する

など。

まさに寸分の狂いもないほど精緻に設計し、使い分けています。その話術によって、我々は「古舘ワールド」に引きずり込まれているのです。

だけど、「安易に古舘伊知郎をお手本にしよう!」は、×

さて、ここまで古舘さんを絶賛してきました。

「じゃあ、お手本としてマネをするといいですか?」と聞かれると、ズバリ私としてはお勧めしません。

意外に思われたかもしれませんが、ちゃんと理由があります。

なぜなら、相当の上級者でなければ、「表面的に、そのまま」彼のテクニックを真似てしまうと、むしろ不誠実で、ややもすると胡散臭いプレゼンになるか
です。

「どういう点で不自然で、怪しげなプレゼンテーションになってしまうのか?」の理由を説明します。

1つは、芝居がかった感じになるからです。

下手に古館さんを真似た話し方をすると、作っている感がありありで「たぶん本心じゃないよね?」と思われる確率が高まります。

また、「自分に酔っているだけ?」と思われ、逆に「ひかれて」しまいます。

最悪の場合、「うまく丸め込もうとしているんじゃないか?」、「騙そうとしているのでは?」と警戒され、完全に逆効果になり、大変危険なのです。

もう1つは、スピーディに話しすぎるから。

相当高いレベルで、デリバリーを駆使できないと、話が早すぎて聞き手の理解が追い付かなくなります。

加えて、「軽妙」な語り口が裏目に出て、軽薄で薄っぺらい感じに取られると、誠実な感じの真逆の印象になってしまいます。特に、ビジネスパーソンにとっては致命的と言っていいほどの短所が浮き彫りになります。

まとめるなら、彼を名プレゼンター「たらしめている要素」は取り入れるが、彼のスタイルをそのまま真似ることはしないということ。

言い換えるなら、「学ぶ」ことと「真似る」ことを分けて、自分のプレゼンテーションに合う部分を適用することが肝要なのです。

私自身も古舘さんから大いに学ばせてもらってますが、マネはしないように気を付けています。

西野浩輝写真マーキュリッチ代表取締役
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。
西野著書写真

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