from 西野浩輝

私たちが研修担当者のみなさんからよく相談されることの一つに、「どうすれば研修効果の定着が図れるか?」というものがあります。

せっかく研修を実施してもスキルやマインドが身につかず、研修で学んだことをその後の仕事にも活かしていない受講者が数多くいることに、頭を悩ませている研修担当者は多いようです。

確かに、実施した研修の内容そのものはそれほど違いがないのに、受講者の間に効果が定着している会社がある一方で、定着しているとは言いがたい会社があるのも事実です。

この違いは何でしょうか。

研修効果が図れている企業のメカニズム

下の図1は、研修効果の定着が図れている会社のメカニズムを示したものです。

図1

この図の中に、「働きかけ」「仕組み化」「風土」という言葉が出てきます。私たちはこの3つがキーワードになると考えています。

詳しくはこのあと述べていきますが、3つのキーワードのうち、最初におこなう必要があるのが「働きかけ」です。これがもっとも労力を要します。そこでこの労力を最小限に抑えるために必要となるのが「仕組み化」です。

そして「仕組み化」が組織の中に定着すると、その仕組みを回すことが当たり前の「風土」が醸成されていきます。

ここまでくればしめたもの。研修担当者があれこれと思い悩み、労力をかけなくても、受講者は研修で学んだことを自ら進んで研修後に復習したり、仕事に活かしたりしようとするでしょう。

このようにして、研修を職場で生かす風土が築かれていき、効果定着が加速していきます。

では、キーワードである「働きかけ」「仕組み化」「風土」に関して、何をどうすれば効果定着が実現していくのかを具体的に説明していきます。

研修を受ける目的・メリットを受講者にありありと伝える

受講前の「働きかけ」の重要性

最初に、受講者への「働きかけ」について説明します。

研修は「○月○日に実施するので受けてください」と告知するだけでは、研修に対する受講者の意識向上が図られにくく、最終的に効果定着はあまり期待できません。

例えば、入社5年目の社員を対象に、ジェネリック(汎用)スキルの一つであるプレゼンスキルを身につけてもらうために、プレゼンテーション研修を実施するとします。

このとき受講者の中には、「自分は日々の業務の中でプレゼンをする場面なんてない。それなのになぜこんな研修を受けなくてはいけないのか?」と感じる人がおそらくいるでしょう。

このように研修を受ける目的が不明確なまま受講すると、研修中の態度も受け身になりがちで、研修後も学んだことを復習したり仕事に活かしたりしなくなります。これは当然のことだといえます。

そこで研修効果の定着が図れている会社の担当者は、研修前に受講者に対して、

「この研修を受けることで、どんなスキルが身につくか?」
「そのスキルを身につけると、どんな場面に役立てることができるか?」
「そのスキルを身につけることは、短期的にはどんなメリットを、中長期的にはどんなメリットを自分にもたらすか?」

について、具体例を挙げながら、ありありと伝えています。

この事前の働きかけをきちんとおこなっているかどうかで、受講者の研修に向かう意識・態度は大きく変わってきます。

受講後の「働きかけ」の意義

受講者への働きかけは、研修が終わったあとも大切です。

研修で起きがちなことの一つに、「受講者は、研修を受けた直後は意欲が最高潮に達しているが、時間が経つともに熱が冷め、やがて学んだことを復習したり、業務に活かそうとしたりしなくなる」ことがあります。

そこで研修担当者に求められるのは、受講者が研修後も学んだことを継続実践できるためのサポートをしてあげることです。

例えばある会社では、研修直後に受講者に「この研修で学んだこと」と「明日からの業務で実践したいこと」を情報共有ソフトに書き込ませ、ほかの受講者や上司・同僚も、その受講者が書き込んだ内容を見られるようにしています。

心理学に「宣言効果」という用語があります。

これは、「人は誰かに何かを宣言すると、その宣言を守るために行動せざるを得なくなり、その結果、目標を達成しやすくなる」というものです。

この宣言効果を継続実践させるために活用しているのです。

上位層には、事業課題や組織人材課題と研修とのつながりを示してあげる

一方、優秀な研修担当者は、上位層に対しても、しっかり「働きかけ」をおこなっているものです。

上位層の中で、一番のキーパーソンは何と言っても受講者の直属の上司です。なのに残念ながら、上司の研修に対する不理解・無関心・非協力が、研修効果の定着を阻んでいるケースが多いのも事実です。

たとえば、「研修なんて時間の無駄だ」と思っており、部下が研修で学んだ内容に興味がなく、学んだ内容を業務に活かせる場面を与えようとせず、さらには学んだ内容と矛盾した指導をしてしまう……。

こんな上司だったら、どんなに素晴らしい研修を実施できたとしても、成果に結びつきにくいのは自明の理でしょう。

だからこそ上司への働きかけが重要になります。

上司への「働きかけ」と関わらせ方

働きかける際に大切なポイントは、「なぜこの研修が必要なのか?」を、会社の事業課題や組織人材課題に結びつけて説明すること。

たとえば、「今、我が社はこういう事業課題を抱えている。この事業課題を解決できないのは、こういった組織人材課題に直面しているからだ。そこでこの研修は、その組織人材課題を解決し、ひいては事業課題を解決することをねらって実施しようとしている」という旨を、明確なロジックを立てたうえで説明するのです。

上司の中に「研修なんて時間の無駄だ」と考える人がいるのは、事業課題および組織人材課題と、研修とのつながりが見えていないからです。

逆に言うと、「この研修を成功させることが、事業課題や組織人材課題の解決につながっていくんだ」ということが腑に落ちれば、研修に対する意識や態度も変わっていきます。

さらに、もし可能であれば、部下が受講している研修にオブザーバーとして参加してもらうというのは非常にお勧めです。

「部下がどんな課題感の下で、どんなことを学び、実務の課題解決に生かそうとしているか?」を肌感覚を持って体験できると、ほとんどの上司は俄然当事者意識を持つようになります。

もちろん、研修のフルオブザーブが理想なのですが、多忙な場合は自分の直属の部下が発表するところを見るだけでも十分に効果が見込めます。

一部の企業では、例えばプレゼンテーション研修において、部下がプレゼンする時間帯をあらかじめ上司に伝え、そのパートのみをZoom等のオンラインでもいいので、見るように伝えています。オブザーブした上司は、改めて客観的に部下のプレゼンの状況・課題を把握するだけでなく、講師のフィードバックを見ることで、今後どんな指導をしていくべきかの指針がより明確になります。

こうして上司を研修に巻き込めば、彼らの心の中に研修に対する当事者意識が高まっていきます。部下が受けて来た研修に対して無関心ではいられなくなります。

すると、研修が終わったあと、部下から「何を学んできたか?」を聞き出したくなり、学んだことを部下に継続実践させるために自分は何ができるかを考えるようになり、学んだことを業務の中で実践できる場面を増やそうとするでしょう。

上司と受講者の連携で受講目的を明確にする

そしてもう一つ、「働きかけ」に関しては「研修担当者⇒受講者本人」、「研修担当者⇒上司」だけでなく、「受講者⇔上司」間でもおこなわれると、研修効果の定着を図るうえで、より効果的です。

例えばある会社ではプレゼンテーション研修を実施する際、受講者に

「普段、プレゼンの場面やコミュニケーションをおこなう際に、どんなことがうまくいかなくて悩んでいるか?」
「その原因は何だと思うか?」
「その問題を解決することで、どんな自分になりたいか?」
「そのためにはこの研修で特にどのような点を学ぶべきか?」

といったことを書かせ、上司に提出させています。

一方で上司にも、「この研修によって、部下にどんな力をつけてもらいたいか?」等のメッセージを書いてもらい、それを事前に受講者に見せています。

上司にとっては、「部下が何を考えて、今回の研修を受けようとしているか?」を知ることは、研修後に部下指導をおこなう上で大いに参考になります。

一方部下の側は、「自分がどうなりたいか?」だけでなく、「上司は自分にどうなってほしいと思っているか?」を知ることで、より受講目的が明確化され、高い意欲を持って研修に臨めるようになるという効果があります。

部門長への「働きかけ」が研修のスタートダッシュを助ける

この「上位層」に関して意外と見過ごしがちなのが、受講者の部門のトップの人への働きかけです。

組織のトップの影響力はやはり絶大です。なのに、このトップからのメッセージ力をうまく活用できていないケースも多々見受けられるのは、もったいないことです。

ぜひ部門トップの方から研修の冒頭でしっかり「この研修の意義」を語ってもらいましょう。

このとき、話すことを完全にお任せするのはやや危険です。

「研修を楽しんで」だけしか言わなかったり、全然関係のない話を延々続けたり、挙句の果てには「私は研修が嫌いです」など、効果的でない挨拶をしてしまっているケースには枚挙にいとまがありません。

研修担当者として、「今、我が社はこういう事業課題を抱えており、それを解決するためにこういう動きをして欲しい。そのためにこの研修を企画したので、心して取り組んで欲しい」といった旨のメッセージを厚く&熱く語ってもらえるよう、しっかり働きかけましょう。

ある企業では、ビデオメッセージとして毎回の研修の冒頭でトップからの語りを受講者に聞かせ、動機付けをしています。

仕組み化により研修担当者の負荷を減らし、取り組みを効率化する

ここまで「研修効果の定着を図るためには、研修担当者から受講者、上位層への働きかけや、受講者-上位層間相互の働きかけがカギを握る」という話をしてきました。

これを読まれた研修担当者のみなさんの中には、

「確かに働きかけは大切かもしれないが、ひとつひとつの研修でそれをやっていると、あまりにも労力がかかりすぎる」という感想を抱かれた方も多いと思います。

そこで次に大切になってくるのが、2つめのキーワードである「仕組み化」です。

「仕組み化」を分解すると、「ツール化」と「ルール化」の2つに整理できます。

「仕組み化」の例と役割

研修があるたびに、「今回の研修では、受講者と上司に対して、どんな働きかけをしようか?」と考え、その都度準備をするというのでは、研修担当者の負荷は大変なものになります。そこで仕組み化できる部分については、仕組み化していくのです。

例えば先ほど、ある会社では研修直後に受講者に「この研修で学んだこと」と「明日からの業務で実践したいこと」を情報共有ソフトに書き込ませているという話をしましたが、これも仕組み化の一つです。

情報共有ソフトというツールを設定し、「研修を受けたときにはそのツールに書き込み、それをもってはじめて受講完了とする」ということをルール化すれば、研修担当者にかかる負荷は大きく軽減されます。

またやはり先ほど述べた「上司から部下に『今回の研修で、どんな力をつけてもらいたいか?』についてのメッセージを書いてもらう」というのも、仕組み化の一つです。

研修のテーマがプレゼンテーション研修であろうが営業研修であろうが、部下が研修を受けるときにはメッセージを書いてもらうことをルール化するのです。

いわば仕組み化は、受講者と上司への働きかけを効率的・効果的におこなっていくための補助エンジンの役割を担います。

風土を作るまでは大変だが、風土ができればぐっと楽になる

研修効果の定着を図るために、研修担当者から受講者と上位層に働きかけ、仕組み化できる部分は仕組み化したとしても、最初からそれらがうまく機能するとは限りません。むしろ思い通りに行かないことの方が多いかもしれません。

受講者に情報共有ソフトに「研修で学んだことのうち、明日からの業務で実践したいこと」を書かせようとしても、面倒くさがって適当にしか書かない受講者もきっと多いことでしょう。

また上司に、「この研修によって、どんな力をつけてもらいたいか?」についての部下へのメッセージを書いてもらおうとしても、「そんなことをやっている暇はないよ」といった反応が返ってくるかもしれません。

そうしたときに、研修担当者がやるべきことはたった一つ。

くじけず、続けることです。受講者と上司に、それをおこなう意義と効果を粘り強く訴え続けていくのです。

するとある時点で閾値を超えるときが来ます。

受講者の中にも、上司の中にも、研修担当者が訴え続けていることに共感し、主体的に実践しようとする者が1人、2人と増えていきます。そして彼らが結果を残していくようになれば、周りの人間も次第に彼らに追随し始めます。

こうして「それをおこなうのが当たり前の風土」や、「それをおこなうことが、社員の成長や組織の成果に結びつくことをメンバーが確信している風土」が組織の中に醸成されていきます。

研修を単発の行事に終わらせず、学んだことを現場での業務に活かし、定着させようとする風土ができあがった組織は最強です。研修担当者があれこれと仕掛けなくても、受講者や上位層が自ら主体的に動いてくれるからです。

風土を作るまでは大変ですが、風土ができあがってからはぐっと楽になります。

研修のタイプによって、働きかけるポイントは変わってくる

研修効果の定着を図るうえで、「働きかけ」「仕組み化」「風土」の3つがキーワードになるのは、どんな研修も同じです。

ただし働きかける際の「働きかけ方」については、研修のタイプによって違ってきます。研修のタイプは、図2のようなマトリクスで整理することできます。

図2

このマトリクスでは、縦軸に「短期プロジェクト型-中長期継続型」、横軸に「ジェネリック(汎用)スキル・能力養成型-スペシフィック(特定)スキル・能力養成型」を置いています。

研修のタイプ別「働きかけ」のポイント

ここで言う「スペシフィック(特定)スキル・能力養成型」とは、重要なコンペを目前に控えた営業担当者を対象とした「次のコンペに勝つためのプレゼンテーション研修」のように、受講対象者および目的が絞り込まれている研修のことを言います。

これに対して「ジェネリック(汎用)スキル・能力養成型」とは、若手社員を幅広く対象にした「基本的なスキルを学ぶプレゼンテーション研修」のようなものを言います。

このうちジェネリックタイプの研修の場合、受講目的が曖昧なまま、会社や上司から言われたから仕方なく受講するという受講者もいることが想定されます。そのため研修担当者は、受講者一人ひとりの受講目的を明確にさせることに、より多くのパワーを割いて働きかけをする必要があります。

一方、スペシフィックタイプの研修の場合、受講者の受講目的は明確(次のコンペに勝つこと!)ですから、そこにはあまり多くの働きかけをおこなう必要はありません。

その代わり、受講者が学んだことを研修後に実践できる環境を整えることにパワーを割く必要があります。

例えばある会社では、受講者だけではなく、受講者の上司も研修にフルオブザーブさせました。いわば上司にも研修の内容を学ばせたわけです。すると研修後にコンペに勝つための作戦を練るときも、本人と上司が同じ目線に立って考えることできます。

このように研修担当者は、研修のタイプによって、重点的に働きかけるポイントを変えていく必要があります。

仕組み化の重要度は「短期プロジェクト型」か「中長期継続型」かで変わる

また「仕組み化」については、「短期プロジェクト型」か「中長期継続型」かによって、仕組み化の重要度が異なってきます。

このうち「中長期継続型」とは、新入社員研修のように毎年継続的におこなう研修のことを言います。

また「短期プロジェクト型」とは、そのときの喫緊の課題に対する解決策としての研修のことを言います。

例えばコロナ禍の影響で在宅勤務が始まった2020年、多くの会社がリモートワーク研修を実施しました。けれども社員のほとんどが在宅勤務に慣れた現在では、リモートワーク研修をおこなう会社は減っています。リモートワーク研修はまさにこのタイプの研修と言えるでしょう。

さて「短期プロジェクト型」と「中長期継続型」では、どちらが仕組み化がより重要になるかといえば、当然「中長期継続型」です。何しろ毎年実施するわけですから、仕組み化しておいたほうが断然研修担当者の負荷が減り、効率的になります。

一方「短期プロジェクト型」の場合は、既にほかの研修で仕組み化しているものをそのまま活用できる場合は活用すべきですが、あえてその研修のために新たに仕組み化をおこなう必要はありません。

このように、研修のタイプによってどのポイントに重点的に働きかけるかを見極め、仕組み化できる部分は仕組み化していく。

そのうえで仕組みの力を借りながら、受講者と上位層に粘り強く働きかけ続けることで、風土にまで高めていくことを目指す。

そうすることで、着実に研修効果は定着していくことでしょう。

西野浩輝写真マーキュリッチ代表取締役
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。
西野著書写真

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