
今回、商談やプレゼンなどで、ぱっとうまく言葉が出てこなくて困っているという方に向けて、その原因はそもそも何なのかという点と、それを解消するためのトレーニング方法についてご紹介していきたいと思います。
商談やプレゼンだけでなく、上司への報告や部下への指示、同僚との相談など、日常的な業務の場面でもうまく説明ができずにコミュニケーションが円滑に取れないと、業務の進捗に支障をきたしたり、誤解を招いたりする可能性があります。ビジネスパーソンとして、言葉を適切に選んで伝えるスキルは、あらゆる場面で求められる重要な能力です。この記事でご紹介する原因とトレーニング方法は、商談やプレゼンに限らず、あらゆるビジネスシーンで活用できるものです。ぜひ、商談やプレゼンの機会がない方にも、この記事をご覧ください。
いざという時に言葉が出てこない原因
まず、そもそもどうして言葉が出てこないのかという原因を、3つ主にありますので、ご紹介していきたいと思います。
インプットなのかアウトプットなのか

そもそも何かを話すというのは、インプットとアウトプット両方がなければ成立しない行為です。
インプットとは、自分の頭の中にどれだけ多くの言葉が蓄えられているか、つまり語彙力のことを指します。
何かを話すとき、その内容を適切な言葉に置き換えて話すのですが、語彙力が足りないと、自分の気持ちや状況をうまく表す言葉が見つからずに詰まってしまうことがあります。
アウトプットとは、状況に即して、蓄えられた語彙の中から適切な言葉を探す作業です。この作業を素早く行うことができれば、流暢に話せているということになります。
つまり、アウトプットにおいて重要なのは、あらかじめ蓄えられておいた語彙の中から素早く探すという点であり、そこには脳機能が深く関わってきます。
語彙力、想起力を司る脳のメカニズム
では、インプット・アウトプットが脳のどこで行われているかと言うと、まずインプットの方は、記憶を司る場所である海馬という部分で行われています。
そしてアウトプット、つまり想起力の部分は、思考や判断力というのを司っている前頭葉で行われています。
したがって、トークのためのトレーニングを行うというのは、基本的には脳のトレーニングを行うことになりますが、この海馬を鍛えるべきなのか、それとも前頭葉を鍛えるべきなのかという点で、アプローチ方法がそれぞれ変わってきます。
脳機能を低下させる3つの原因

脳機能が低下する3つの原因というのは、1つ目は加齢です。年齢を重ねると脳機能は衰えていくため、やむを得ないことではありますが、原因の1つとして挙げられます。
若い方で言葉が出てこない場合は、残りの2つが原因の可能性が高いです。2つ目は睡眠不足です。
日頃から慢性的に睡眠不足に陥っているという方は、脳機能が低下している可能性が高いです。睡眠不足が脳機能を低下させるという研究結果は数多く報告されているため、規則正しい生活を心がけることが重要です。
そして3つ目が、ストレスです。
実際、ほとんどの方がこのストレスが原因で出てこないということが多いと言えます。ストレスというのは様々な要因があります。
プレッシャーや、苦手意識など、様々な角度からストレスというのを人間は感じてしまうので、そういったストレスに対して何かしら対策をかける必要があるのです。
| 項目 | 役割・場所 | 特徴・主な原因 |
|---|---|---|
| インプット(語彙力) | 海馬 | 言葉を記憶として蓄える機能 |
| アウトプット(想起力) | 前頭葉 | 蓄えた語彙から適切な言葉を素早く探す機能 |
| 機能低下の要因 | 全体 | 加齢、慢性的な睡眠不足、ストレス |
トレーニング(ストレス対策編)

ここからは、親しい人の前だとうまく話せるけれど、初対面の人や大人数の前、商談やプレゼンなど重要なシーンでうまく話せないという場合、ストレスが原因の可能性が高いです。
そのストレスを軽減するための対策として、4つのトレーニングをご紹介していきたいと思います。
1.マインドセットを行う
これはトレーニングというよりも、日頃から意識するという点ではありますが、完璧主義を捨てるというマインドセットが重要です。
例えばプレゼンや商談で必ず成功させなければならないという状況では、完璧にやらなければならないとつい思ってしまいがちです。そうすると余計なプレッシャーがかかってしまいます。
「失敗してもいいや」とまではいきませんが、完璧主義を捨てるというマインドセットを日頃から意識し、商談やプレゼンがある前にこのマインドセットを行う流れを忘れないようにすることが重要です。
失敗を恐れるという不安が、前頭葉の働きを抑制してしまいます。
言葉に詰まってしまったとしても、内容を伝えることが重要だという優先順位をしっかり自分に言い聞かせることで、失敗しても前向きに内容を伝えることが大事だというように切り替えることができます。そのようなマインドセットを行う訓練をすることをお勧めします。
2.呼吸法の取得
次にご紹介するのは呼吸法です。過度な緊張はストレスを生み出すため、重要なシーンや話す前に呼吸法によってリラックスする訓練を行うことをお勧めします。
具体的な手順は以下の通りです。
- 口からゆっくりと息を吐き出す
- 鼻から深く息を吸う(3秒間):腹式呼吸を意識する
- 息を止める(4秒間):おへその下の「丹田」が硬くなっているか確認する
- 口から細く長く息を吐き出す(16〜20秒間)
この呼吸法には2つの狙いがあります。1つは、この呼吸法でリラックスするという点です。もう1つは、パブロフの犬という心理学の原理を応用し、この呼吸法をするとリラックスするという経験を自分に植え付けておくことで、何度も繰り返すうちに、この呼吸法を始めただけでリラックスできるようになることです。
スポーツ選手が本番前にルーティンを行うように、このルーティンを自分に身につけることも重要です。
この呼吸法は、いわば「リラックスのスイッチ」を体に覚えさせるトレーニングなのです。何度も繰り返すことで、この呼吸法を始めただけで、体が自動的にリラックスモードに入るようになります。
3.イメージトレーニング
次にご紹介するのはイメージトレーニングです。
うまく話すには場慣れすることが非常に重要ですが、実際にその場を経験する機会は限られています。そのため、イメージトレーニングでそれを補うことが有効です。
具体的には、ひどいプレッシャーを抱えるような重要なプレゼンなどの状況を脳内で普段からイメージし、「この時にこう話そう」「トラブルが起こったらこう対処しよう」など、なるべく多くの状況やトラブルを想定してイメージトレーニングを事前に行っておくことで、「自分は大丈夫だ」という自信を持ち、リラックスすることができます。
他にも、YouTubeやテレビなどで上手に話す人を参考にし、「自分だったら同じように話すならどう話すか」ということを普段からイメージしておくことで、効果的なイメージトレーニングができます。
イメージトレーニングは、スポーツ選手が本番前に頭の中で完璧なプレーをイメージするのと同じです。あなたも、商談やプレゼンの前に、成功している自分を何度もイメージしてみてください。脳は、イメージと現実の区別がつきにくいので、イメージトレーニングを繰り返すことで、実際の場面でも落ち着いて話せるようになります。
4.瞑想する
続いて、呼吸法に近い方法として、瞑想があります。
最近、瞑想が集中力を高めることでリラックスできるという効果があるとして注目されています。
瞑想には立ちながら行う方法や座ったまま行う方法など様々な方法があります。瞑想に詳しい専門家の書籍を読んだり動画を見たりして、それぞれ自分の状況に合った瞑想のトレーニング方法を探して行うことをお勧めします。
トレーニング(脳機能編)
続いて、加齢などによって脳機能が衰えている、もしくはしばらく話す場から離れていたことで脳機能が低下している場合に、それを向上させるために行えるトレーニングを4つご紹介していきたいと思います。
1.人と話す機会を増やす
1つ目は、人と話す機会を増やすことが重要です。日頃からよく話していれば、いざという時も話せる確率が上がってきます。場慣れするということです。
これは単純なようで実は軽視してはいけない行為です。例えば、高齢者が家族と離れて一人暮らしを始めると、会話の機会が大幅に減ります。その結果、言葉を思い出す力が衰え、言葉が出てこなくなることがあります。これは認知症が進む原因の一つとも言われています。
逆に、人と話す機会を増やすことで、話す体力も身につき、たくさんの人の話し方、上手な話し方や語彙なども日頃からインプットできるようになります。
いざという時に「あの人はこういう表現、このフレーズで話していたな」と、その場でアウトプットできたりして、どんどん話すのが上手になっていきます。
人と話す機会を増やすというのは、一見当たり前のことのように思えますが、実は非常に重要です。
2.朗読を習慣づける
続いて、1人でもできるトレーニングとして、朗読が非常に有効です。
朗読は、一瞬でインプットとアウトプットを行う行為です。本などを見て文字をその場でインプットし、その瞬間にすぐアウトプットするという脳の回転を日頃から行うことで、インプットとアウトプットが大量に行われ、脳機能の向上につながります。
さらに、力を込めて話したり、重要ではない点は感情を抑えて話したり、抑揚をつけることができるようになると、より多くの脳を使うことになり、脳機能の向上につながっていきます。
朗読は、脳の「インプット→アウトプット」の回路を高速で回すトレーニングなのです。毎日10分でもいいので、新聞や本を声に出して読んでみてください。最初は噛んでしまうかもしれませんが、続けることで、脳が素早く言葉を引き出せるようになります。
3.ライティング力を磨く
文章を書くことも話す力の向上につながります。論理立てて何かを話す時に役立つのがライティング力の向上です。
文章は、ゆっくり伝えたいことを表現できるため、どのように文章を作成すると論理的にわかりやすく相手に伝えることができるのかということをトレーニングできます。
結論から書いた方がわかりやすいのか、それとも最後に結論を書いた方がわかりやすいのか、説明は箇条書きにした方がわかりやすいのか、そういった点を日頃から考えてライティングをすることで、話す力にも影響してきます。
ライティングは、話す内容を「設計図」として描く練習なのです。設計図がしっかりしていれば、話す時も迷わずに進められます。ぜひ、日頃からメールや報告書を書く時に、「どう書けば相手に伝わりやすいか」を意識してみてください。
4.1分セルフ実況
最後に、1分で何かを実況するトレーニングをご紹介します。
部屋に目に入ったペットボトルやリモコンなど、何でも構いません。パッと目に入ったものを1分間、それについて説明したり思い出を語ったり、何でもいいから実況し続けるというのが、1分セルフ実況です。
このトレーニングの狙いは、パッと目に入ったもので話さなければいけないことで、自分の記憶の引き出しの中から、その対象についての記憶を開け続けることです。
何かを話しながら記憶を開けるという行為を行うのに非常に有効なのが、このトレーニングです。
何でも簡単に行えますし、実際に声に出せない場合でも、電車に乗っている最中に脳の中で1分間話し続けるという訓練もできるため、どこでも手軽に実践できるトレーニングと言えます。
いざという時の対策を覚える
トークフレームワークを用意する
まず覚えてもらいたいのがトークフレームワークです。
あまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、言葉の出てこない原因の1つに、情報の整理に脳のリソースを使いすぎてしまっているということが考えられます。
つまり話したいことがある時に、話したい内容をどういう順序で話せばいいのかということに脳のリソースを多く使ってしまっているのです。
ある程度自分の話の型としてフレームワークを持っておけば、言葉選びにだけ集中して会話をすることができるようになります。
様々なトークフレームワークはありますが、最も汎用性が高いものをここではご紹介したいと思います。
それは、PREP法と呼ばれるもので、Point(要点)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(要点)の4つ、つまり結論、理由、具体例、結論という順序で話すというのがPREP法です。
最初のPointでは、最も伝えたいことを述べます。次にReasonで、なぜそうなのかという理由を説明します。そしてExampleで、根拠となる事例を出し、最後にPointをもう一度持ってきて、伝えたかったことを再度強調します。
| 要素 | 内容 | 説明 |
|---|---|---|
| Point(要点) | 結論 | 最初に最も伝えたいことを述べる |
| Reason(理由) | 理由 | なぜその結論に至ったのかを説明する |
| Example(具体例) | 具体例 | 根拠となる事例やエピソードを出す |
| Point(要点) | 結論(再) | 最後にもう一度、伝えたいことを強調する |
このPREP法を用いることで、それに沿って次に何を話せばいいのかを考えることができるので、話に詰まりにくく会話をすることができるようになります。
PREP法は、話す時の「型」なのです。この型が決まっていれば、次に何を話せばいいか迷わなくなります。ぜひ、この型を頭に入れて、日頃の会話から試してみてください。
レスキューフレーズを用意する
脳機能の改善やストレスへの対策には時間がかかりますが、今すぐできることとして、レスキューフレーズを用意するという方法があります。
頭が真っ白になった瞬間に「とりあえずこれを話す」といった言葉を用意しておくということです。
1つ目は、急に言葉が出てこなくて黙ってしまった時のレスキューフレーズになります。
細かな表現は人によって異なりますが、「今、適切な言葉を選んでおりますので少々お待ちください」ということを伝えることです。聞き手が話し手の状況を理解することで、無意味な沈黙の場にならずに済みます。それどころか、逆に慎重で誠実な人であるというポジティブな印象を与えることができます。
2つ目は、「ここまでの内容で何かご不明な点はございませんか」と相手に質問を投げかける方法です。これは、主導権を相手に渡して考えてもらうことで、自分の考える時間にあてることを可能にします。 区切りの良くない場面で、「今の話、わかりにくくなかったですか」など、このような質問を挟むことも可能です。
3つ目は、会話をしている最中に本当に話したいことを忘れてしまった時に有効なフレーズです。 「一言で申し上げますと」と言ってみることで、要約しようとする言葉をすることで、脳が結論を探し始めるため、言葉の整理がつきやすくなります。
日ごろから、自分がどういう場面で言葉に詰まったかを覚えておき、「このように言えばよかったな」というレスキューフレーズを用意しておくと、言葉に詰まった時もスムーズに会話を続けることができるようになります。
- 言葉が詰まった時:「今、適切な言葉を選んでおりますので、少々お待ちください」
- 効果:思考中であることを伝え、誠実で慎重な印象を与える
- 時間を稼ぎたい時:「ここまでの内容で何かご不明な点はございませんか?」
- 効果:主導権を相手に渡し、自分の考える時間を確保する
- 結論を忘れた時:「一言で申し上げますと……」
- 効果:要約しようとすることで、脳が結論を自動的に探し始める
レスキューフレーズは、いわば「非常口」なのです。頭が真っ白になった時でも、このフレーズを使えば、時間を稼ぐことができます。ぜひ、自分なりのレスキューフレーズを用意しておいてください。
まとめ
基本的に人と話すのが苦手や流暢に会話ができない、流暢に商談ができないという苦手意識を持つと、そちらに気がとられ本来の会話の目的が疎かになってしまう可能性があります。これでは本末転倒ですよね。
そのままにしておくと閉じこもってしまって、人と話す機会というのを減らしてしまうので、何か1つでもいいので、今回ご紹介したトレーニングの中のどれかを毎日実践していただくことをお勧めします。
今日から、ぜひ試してみてください。 完璧を目指す必要はありません。まずは小さな一歩から。1分セルフ実況を1回やってみる。呼吸法を1回試してみる。それだけでいいのです。
私も、最初は「こんなことで変わるのかな」と半信半疑でした。でも、続けることで、確実に変化を感じられるようになりました。あなたも、きっと変われます。一緒に頑張りましょう。
