岡山大学様ではこのたび、国立研究開発法人科学技術振興機構「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」に採択され、大学の取組として「OU-SPRING」を実施しています。その中で、大学院生13名を対象にストーリーテリング研修を実施されました。この研修を担当された岡山大学副理事(研究・産学共創総括担当)・副学長(学事担当)・上級URAの佐藤法仁様に、研修実施のねらいやマーキュリッチが提供した研修内容に対する評価などについてお話を伺いました。

理解や支援を得るには、相手の心をつかむ話し方が重要

岡山大学様では2025年3月、大学院生を対象にした岡山大学次世代研究者挑戦的研究プログラム「OU-SPRING」の中で、ストーリーテリング研修を実施されました。なぜこの研修を行うことにされたのでしょうか

佐藤様 OU-SPRINGは、博士号取得を目指す学生に生活費相当の支援を行うとともに、研究以外の幅広い知見を身につけてもらうプログラムです。プログラムでは、これまでも英語ライティング研修や海外研鑽などのさまざまな研修を実施してきました。

そうした中でストーリーテリングを行うことにしたのは、専門知識を専門外の方々にわかりやすく説明する能力を学生たちに身につけてほしかったからです。しばしば研究者の中には、自身の研究分野については専門用語を使って論理的に説明することができても、一般の方や他分野の研究者に対してわかりやすく伝えることを苦手とするケースが見られます。これでは研究の価値が正しく理解されず、研究費の獲得や異分野との共同研究など、研究を深め、広げていく機会を逃しがちになります。また一般の方に説明できる能力がなければ社会的な支持を得られません。

もちろん学生の中には博士課程修了後に産業界に進む者も多くいますが、そうした場合も多様な立場の方々と協働していくうえで、この能力が必須となるのは言うまでもありません。

そこで、このスキルを身につけるための手段として、ストーリーテリング研修を実施することにしました。

専門外の方にわかりやすく説明できるスキルを習得するための研修として、プレゼンテーション研修ではなくストーリーテリング研修を選ばれたのはなぜですか

佐藤様 一般的なプレゼンテーション研修では、既存のフォーマットに沿って論理的にわかりやすく説明するスキルを身につけていきます。もちろんそうしたスキルも重要です。

ただし研究費の審査にしてもスタートアップのピッチにしても、相手に「この人の活動を支援したい」「この人と一緒に研究開発に取り組みたい」と思ってもらうためには、サイエンス重視の論理的な説明だけではなく、相手の心をつかむ、共感を得る話し方ができることが大切になります。

ストーリーテリングは、物語というかたちで相手の共感を得ながら自分の思いを伝える手法です。特に専門外の方々に話をする際には、ストーリーをつけた方がわかりやすく、共感を得やすいと思います。これまでOU-SPRINGでは、こうした研修を実施していなかったこともあり、新しいコミュニケーション手法を学ぶ機会として取り入れることにしました。

自分が伝えたい価値と相手が求めている価値をマッチングする

研修会社にマーキュリッチを選んだ理由を教えてください

佐藤様 マーキュリッチさんがストーリーテリング研修を手がけていることは、以前私自身がストーリーテリングに興味を抱き、YouTubeなどでいろいろ自己研鑽しているうちに御社の動画と出会ったことで知りました。その後、OU-SPRINGで新しい研修を実施しようとなった際に、そのときのことを思い出して御社のウェブサイトを読ませていただきました。その中で書かれていた御社のストーリーテリングの考え方について共感し、お願いしようと思いました。

マーキュリッチさんのストーリーテリングに対する考え方を私なりに解釈すると、「ストーリーテリングは、自分が伝えたい価値と相手が求めている価値をマッチングさせたうえで、聴き手の興味関心に沿って話すことができてこそ、初めて魅力的なものになる」ということだと思います。自分の価値観や興味関心を押しつけるような話し方では、どんなストーリー立てて話しても、聴き手の心を動かすことはできませんからね。

マーキュリッチさんに依頼するにあたっては、「企業への研修を中心に行っている中で、はたして大学院生向けの研修を受けてくれるだろうか」という不安がありました。しかし快く引き受け、また迅速に対応してくださいました。感謝しています。

今回の研修は、13名の学生を対象に2日間にわたって実施しました。この研修に応募された学生の受講動機はどのようなものでしたか?

佐藤様 もちろん一番の受講動機は、自身の研究分野や専門知識を魅力的に伝える力を身につけたいということだったと思います。ただしストーリーテリング力が役立つのは、研究や仕事の場面だけではありません。友人や家族と話す際にも使えるコミュニケーション手法として興味を持った学生も多かったのではないかと推測しています。

さまざまな場面に「気づき」や「響く」ポイントを配置した研修

当日の研修の内容や進め方について教えてください

佐藤様 まず研修の前半で、ストーリーテリングの基本的な型を教えていただきました。学生たちは日々の研究の中で、型やフレームワークを用いて物事を理解・分析することに慣れています。ですから、型を示されたことで「こういうことか」とすぐに理解できたようです。そして学んだ型を踏まえて、与えられた課題について実際にストーリーテリングのかたちで話してみるという演習を行いました。

演習では、自分の研究テーマについて話すだけでなく、研究以外の日常的なテーマについても話す場面がありました。そして発表後は話の組み立てや話し方について、講師を務めた野村さんからのフィードバックや、受講者同士でのフィードバックが行われました。学生たちにとっては、自分の研究分野について専門的なフィードバックを受ける機会は日常的にありますが、「話す」という専門外のことについて多様な視点からフィードバックを受けるのは新鮮な経験だったと思います。

講師を務めた野村については、どのような印象を抱きましたか?

佐藤様 経験豊富で安心してお任せできる方だという印象を受けました。講義では学生たちに合わせた話題を選んでくださったり、フィードバックの場面では学生ごとにコメントやアドバイスの仕方に工夫を施されたりというように、柔軟に対応いただけました。企業研修で培ったこれまでの豊富な経験を、大学院生を対象とした今回の研修にもうまく応用されているのを感じました。

また、これは私が勝手に感じたことかもしれませんが、2日間の研修自体が一つのストーリーテリングになっていたように思います。野村さんは、ところどころにさまざまな「気づきのポイント」や「響くポイント」を配置しながら研修を進めていました。学生は、野村さんが散りばめた「気づき」や「響き」のポイントのうちのどこかで、「ああ、そういうことか」とそれぞれ腑に落ちる経験をしたと思います。

受講後の学生たちの研修に対する評価や感想について教えてください

佐藤様 研修後にアンケートを実施したところ、高い評価を得ることができました。自由記述のスペースには、「型を学べたことが重要だった」「自分の話し方の癖に気づけた」「事実を論理的に述べるだけでは、そもそも話を聞いてもらえないことがあると痛感した」といった感想が書かれていました。

学生たちの受講後の変化を測定することはできていませんが、私は学生がストーリーテリングという手法を知ったこと自体に意味があると考えています。知っていれば、必要な場面で使おうと思えますし、それを磨いていくこともできますからね。もしストーリーテリング力を引き出しの一つとして身につけることができれば、研究者としても一人の人間としても役立つはずです。

今後の研修計画についてはどのようにお考えでしょうか

佐藤様 実は現在、国の方でSPRING事業の運用が見直しになっているため、研修も未定の状態です(取材当時)。また機会があればぜひ実施したいと考えています。特に岡山大学では文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」という事業で、従来の価値観に捉われない大学改革を、スピード感を持って進めています。この事業は学生や研究者(教員)だけではなく、事務職員や技術職員、URAなどの高度専門職らも深く関わります。今回の大学院生の好事例を職員らへも展開していくことも重要だと感じています。

また現状ではストーリーテリング力に注目しているのは、企業の方々が中心だと思います。しかし今回の学生や研究者にとっても、多様な方々とコミュニケーションを取っていくうえで有効なスキルです。そしてわが国で求められている知から新しい価値を生み出すことができるナレッジワーカーにとっても必須スキルだと考えます。ぜひナレッジワーカーを育成する大学・研究機関等の多くの関係者に興味を持っていただきたいですね。ストーリーテリング研修を実施する大学・研究機関が、今後増えていくことを期待しています。

本日はありがとうございました

※国立大学法人 岡山大学 ホームページ
※取材日時 2025年12月
※当ホームページに掲載されている文章、画像等の無断転載はご遠慮下さい

本事例でご利用いただいたサービス
担当講師