
児童発達支援施設「TAKUMI(たくみ)」を運営するイニシアス株式会社の三浦次郎社長は、事業拡大とともに「自分のメッセージが現場に届きにくくなる」という壁を感じていました。
部下のハートに火をつける伝達力が重要だと考えた三浦社長は、マンツーマンコンサルティングを受けることを決意します。三浦社長にコンサルティングを受ける前の状況や、実際のセッション内容、その後の成長や成果についてお話を伺いました。
企業の成長に合わせ、経営者も成長していく必要がある
- マンツーマンコンサルティングを受けようと思ったきっかけについて教えてください。

三浦様 「企業の成長に合わせて、経営者も壁を乗り越えて成長していく必要がある」。これはよく言われることですが、私自身も当社が運営している店舗が20拠点に達した2年ほど前に、まさにその壁にぶつかりました。壁となったのは、プレゼンテーション力、スピーチ力でした。
当社では、発達障害の子ども達を対象にした児童発達支援・放課後等デイサービス施設「TAKUMI(たくみ)」を展開しています。運動療育という手法を用いて、子ども達の自己肯定感やソーシャルスキルの向上を図っています。「TAKUMI(たくみ)」の店舗数がまだ少なかった頃は、私が各店舗を回り、直接スタッフと話をして事業に対する想いを伝えることができていました。しかし店舗数が増え、社員数が120名を超えてくると、私のメッセージがなかなか現場まで届かなくなってきたのではと感じるようになりました。
振り返ってみると、当時の当社には明確な経営理念がありませんでした。そのため社員は会社が何をめざしているのか、それを実現するために何をすべきなのかを把握しにくい状況だったと思います。組織が小さいうちは私が直接現場に足を運ぶことで補えていましたが、規模が拡大するにつれてそれも限界になってきました。
そこでまず当社の主要メンバーとともに「イニシアスのバリュー」や「アクション&スタンス」を作成しました。組織全体が共有すべき価値観と行動指針を明文化したのです。しかしこれらは、作っただけでは意味がありません。組織全体に浸透させ、実際の業務に反映させる必要があります。そのためには、私自身が全社員に対して統一されたメッセージを直接発信する必要があると考えました。。
ー そこでご自身のプレゼン力を高める必要性をより感じられたわけですね?
三浦様 そうです。当社では毎年、期初にあたる12月から2月の時期に全社員参加によるPower Up Meetingを開催しており、そこで毎年私がプレゼンをしています。ただし従来の内容は、「前期の実績」「今期の計画」「数値目標」といった数値的な発表にしていました。発表時間も5分から7分程度で、原稿を読み上げる形式でした。
これでは社員の心に十分に響く発信にはならないのではと考えました。特に当社の場合「子どもたちのために」という思いを持ったホスピタリティの高い社員が多く在籍しており、数字中心の発表だと「この会社は利益のみを追求しているのか」という印象を彼らに強く与えかねないリスクがありました。社員が会社の方向性に共感できるようにするためには「数字」ではなく、この会社をどうしていきたいかという「想い」を中心としたメッセージに切り替えなくてはいけません。また原稿を読み上げる形式ではなく、発表時間も40分程度と大幅に延ばしたほうがいいと考えました。
しかし問題は、私がプレゼンに対して強い苦手意識を抱いていたことでした。どのような構成で話を組み立てればいいのか、どうすれば響くスピーチになるのかがまったくわからない状態だったのです。加えて、大勢の前で話すときにひどくあがってしまうことも大きな障害になっていました。「あの緊張感は味わいたくない」という気持ちが強くありました。 これまでの私は「プレゼン」という苦手分野から逃げてきました。しかし先ほども話しましたように、自分が成長しないと会社の成長はありえません。人事総務のメンバーからも「社長がメッセージを発信しないでどうするんですか」と背中を押されました。そこで覚悟を決め、コンサルタントのサポートを得ながら、プレゼン力の向上に取り組むことにしたのです。
プロの技術で私の想いを整理、言語化してくれた
― コンサルタントの選定はどのように行われたのでしょうか。
三浦様 まず人事部長に候補者の選定を依頼しました。そのうえで3社のコンサルタントと面談した結果、マーキュリッチの野村さんにお願いすることに決めました。
決め手となったのは、初回の打合せの際の「野村さんとの会話のスムーズさ」です。こちらのさまざまな疑問や要望に対して、的確に回答していただけたことが大きなポイントになりました。候補者の中で野村さんとの会話はもっとも自然で、話し方も非常に上手でした。マンツーマンコンサルティングは1対1のやりとりの中で行われるわけですから、スムーズなコミュニケーションが取れることが重要な条件となります。
野村さんには2025年2月に開催されるPower Up Meetingに向けて、40分程度のプレゼンの構成づくりのお手伝いとスピーチ指導をお願いしました。
― 実際のコンサルティングは、どう進められましたか。
三浦様 当初は2024年12月に、2時間のコンサルティングを1回だけ実施していただく予定でした。野村さんからは、昨年のPower Up Meetingの動画と発表資料の提出を求められました。その内容を分析して私のプレゼンの特徴や課題を把握したうえで、初回のセッションに臨んでくださったのです。
1回目のセッションでは、私が今度のPower Up Meetingで何を話したいと考えているかについて、さまざまな角度から質問を重ねて整理していただきました。そのうえでプレゼンの大まかな骨子を一緒に作成しました。
印象に残っているのは、セッションの最後に、私が話してきた内容を野村さんがその場で2、3分のプレゼンにまとめて実演してくださったことです。それを聞いた瞬間「私が伝えたかった内容そのものだ」と感動しました。短時間で私の思いを的確に汲み取り、それを人に伝わるかたちで表現できる技術は、まさにプロフェッショナルそのものでした。
このときの体験により、野村さんの力を借りれば、私がめざすスピーチを実現できると確信しました。そこで1回目で作成した骨子をより具体的な内容に発展させるため、追加でもう1回セッションをお願いすることにしたのです。
― 2回目のセッションはどのようなものでしたか。
三浦様 1回目のセッションでは、私がPower Up Meetingで話したい内容を、野村さんが「イニシアスの企業バリュー」「サービスの質向上」「業績」の3つの要素に整理してくださいました。この3要素を3本柱として、実際に本番用の原稿を作成して、野村さんの前で発表しました。40分間のプレゼンに対応するための原稿を用意したため、膨大な文字量になりました。
これに対して野村さんからは、2つの観点からアドバイスをいただきました。1つは、原稿の分量と発表手法についてです。当初、40分間の発表に対応するため、内容を詳細に記載した原稿を作成しておりましたが、その全てを暗記して臨むのは、現実的には非常に困難なものでした。この点について野村さんからは、「原稿をすべて記憶して話す」方式ではなく、「スライドに要点を整理し、それを確認しながらお話しする」形式への転換を提案いただきました。結果的にスライド形式にしたことで、発表に臨む際の心理的な負担が大きく軽減されました。スライドに要点が整理されているため、迷った際もすぐに立ち戻ることができ、落ち着いてメッセージをお伝えすることができました。
実はスライド形式にすることには、当初は懸念点がありました。聴き手がスライドばかりに注目して、プレゼンをしている私のほうを見なくなることが不安だったのです。しかしこれは実際に本番で試してみると、まったくの杞憂で終わりました。私が聴き手のほうを見て話せば、聴き手も私のほうを見て話を聴いてくれるものだったからです。
野村さんからいただいたもう1つのアドバイスは、プレゼンの構成の根本的な見直しについてです。3本柱でプレゼンを構成しようとすると、聴き手にとって要点が分散し、印象に残らない可能性がある。そこでメッセージを1本に絞ろうと提案されました。そして2人で検討した結果、「サービスの質向上」をメインメッセージとし、これを軸にプレゼンを組み立てることにしました。 この1本化も正解でした。「サービスの質向上」を軸にすることで、聴き手にとってわかりやすい構成になり、その中に企業バリューや業績の話も自然に組み込むことができました。結果として、より印象に残るプレゼンになったと感じています
毎日2時間の猛練習を重ね、プレゼン本番に挑む
― 2回のコンサルティングの終了後は、本番に向けてどのような準備をされましたか。

三浦様 本番までの約1ヶ月間、毎日2時間の練習を行いました。2時間のうち1時間20分程度を1人での練習時間に充て、残りの40分は社内のスタッフに聴き手になってもらい、彼らの前でプレゼンを行ってフィードバックを受けました。「話すスピードが速すぎる」「表情が怖く見える」「手の位置が下がっている」など、なかなか手厳しい指摘を受けました(笑)。また言葉選びについても、「その表現では否定的な印象を与えるから、こうしたほうがいい」などの修正提案を受けました。社員からフィードバックをもらえたことは、聴き手の視点に立った改善ができるという点で非常に有効でした。
また一人で練習しているときと人前で話すときでは、緊張感がまったく違います。たとえ少人数であっても聴き手がいる状況で練習を重ねたことで、本番での緊張をある程度コントロールできるようになったのもよかったと思います。
― 1日2時間も練習時間を割くというのは、相当な覚悟ですね。
三浦様 そうですね。「社長が社員にきちんとメッセージを届けられるかどうか」が、社員を同じ方向に向かわせるための肝になると考えました。そこで最優先で時間を割くことにしたのです。
― 2回のコンサルティングと1ヶ月にわたる猛練習の結果、本番でのプレゼンは去年までとは違うものになりましたか。
三浦様 はい、なったと思います。何より手応えをつかんだのは、終了後に実施したアンケートの結果でした。「前回と違って、社長が自分のメッセージとして、こちらを向いてしっかりと話してくれたのが良かった」「社長の想いがよく伝わった」といった声が多数寄せられました。
またプレゼンの中で発表した今年度のスローガン「いざ、前のめり」も、想像以上に社内に浸透しました。私が各店舗を訪問する際に、「今年のスローガンを覚えていますか」と質問すると、「前のめりですよね。前のめりでがんばります」といった返答が返ってきます。「自分が発したメッセージがきちんと伝わっている」という実感を得ることができました。以前にはなかったことでした。
― 今回の経験を通じて、ご自身のプレゼン力についてどのような変化を感じていらっしゃいますか。
三浦様 私自身が変化を実感しているのは、毎週実施している朝礼において、発信力が以前よりも高まってきたことです。野村さんとのコンサルティングを通じて、相手に伝わりやすい言葉の選択ができるようになり、現在は企業バリューに関する話を中心に、きちんとメッセージを考えて話せるようになりました。 もちろん、ある程度は自分自身で発信したいメッセージやプレゼンの構成を考えられるようになってきた実感はあります。
しかしながら、だからといってプロフェッショナルの力が不要になったわけではありません。年1回のPower Up Meetingのような重要な場面では、引き続き専門家のサポートを得たほうが良いと考えています。私一人では思いつかないような効果的な構成や表現を提案してくれるからです。まだ未定ですが、もしかするとまた野村さんにお声がけすることがあるかもしれません
ー そのときは、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。本日はお忙しい時間を割いていただきありがとうございました。
※イニシアス株式会社 ホームページ
※取材日時 2025年5月
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