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先日某IT企業でオンライン研修を実施しました。その内容・狙い・実施しての成果・そこからの気づきについて共有します。

新型コロナウィルスにより在宅勤務が中心となったり、そもそも3密を避けるために通常の集合研修がストップせざるを得ないなか「研修のオンライン化を検討しなければならない」という人材育成担当者にお役に立てば幸いです。

オンライン研修の内容

  • 研修テーマ:プレゼンテーション研修
  • 受講対象層:新入社員15名
  • 研修時間 :4.5時間×2日
  • オンラインツール:Microsoft社 Teams

こちらの企業さまではもともと新入社員向けに2クラス(8名・7名)に分けて1日研修を実施する予定だったのですが、コロナウィルスの影響で新入社員が在宅勤務となり集合研修の実施が困難な状況となりました。

そこで検討されたのが研修のオンライン化。弊社が担当するプレゼンテーション研修を含めて、人事部が新入社員を預かっている期間の研修をすべてリモート受講が可能な形に整備しなおされました。

オンライン研修実施前の懸念事項

ただ、やはり実施に向けての懸念事項は多数ありました。具体的には以下のような懸念点がありました。

  1. 講師の通信回線は命綱。どのように「絶対に切れない状態」をつくるか?
  2. 受講者の通信環境によっては聴きにくいこともあるかも。どこまでカバーできるか?
  3. リアルな場での研修に比べて受講者の集中力を維持することが難しい。どのようにして集中力キープを成し遂げるか?
  4. 講師と受講者の間で空気感を共有しにくい。それにより関係構築がリアル研修と比較して時間がかかるのではないか?
  5. 講師の講義はプレゼンの模範でもあるがその姿を見せにくい(スライド共有すると講師の話す姿が小さくしか表示されない)。どのように見せるか?
  6. 通信量負担を下げるために受講者のカメラ・マイクを切ると受講者の反応が見えない。受講者の理解が追い付いてこれない状況を察知することはできるか?
  7. 正直な話、受講者のカメラとマイクが切られている状態での講義は壁に話しているみたいでやりづらい。どうするか?
  8. グループワークの際、全体を見渡すことができない。スムーズにいっていないグループをどうフォローするか?

これらのうち研修実施時点ですべての問題が完全に解決したわけではありませんが、どのような対策を立てて実行したのかをレポートします。

1.講師の通信回線は命綱。どのように「絶対に切れない状態」をつくるか?

通信回線を絶対に切らさないという事は現実的には難しいことです。だからこそできる範囲で最大限のことをやろうと講じました。

具体的にはネットにつなぐ方法を3つ用意しました。今回は講師の自宅からの配信になったので、

  1. 講師の自宅Wi-Fi
  2. ポケットWi-Fi
  3. 携帯電話のテザリングおよびスマホのteamsアプリからの配信

1本の紐を太くするよりも、いざと言う時に紐をたくさん用意しておくと言う発想です。

2.講師および受講者の通信環境によっては聴きにくいこともあるかも。どこまでカバーできるか?

それでもどうしても通信回線上、聞き取りにくいことがあり得ると考えました。特に受講者が自宅待機の中で事項のため受講者の通信環境の影響を極めて強く受けると考えました。

正直ここに関しては万全の策を打つ事は難しく、せめて通信量を減らすことによって、極力スムーズな配信を心がけることが最大限やれることだと思います。今回はそのために受講者の映像をオフにすることで通信量削減に努めました。

後述しますがこれによってやりにくくならざるを得ない箇所もありさらなる対策が可能な部分もあります。

3.リアルな場での研修に比べて受講者の集中力を維持することが難しい。どのようにして集中力キープを成し遂げるか?

通常の研修では1日7時間で実施することが我々の場合多いのですが「オンライン研修で集中力を維持するために7時間は長すぎる」というのが多くの意見でした。

そこで今回の研修は1日あたり4.5時間とし2日間で実施したのですが、実感としては十分に集中力が維持できたと感じています。

ただし単に時間を短くしたから大丈夫だったという話ではなく、集中力維持のために工夫した事はかなり多数あります。
いくつかだけ例として挙げると、

  • 講義が10分以上有効的に続かないようにする
  • ミニワークやディスカッションを高い頻度で行う
  • 簡単に受講者が反応できる小さな問いを高頻度で織り混ぜる
  • チャットでシンプルに回答できるようなワークを織り混ぜる
  • いちいち答えさせないにせよ問いかけを行う、講師の話し方にかなりの強弱をつける
  • 緊張と緩和を織り交ぜられるような講義スタイルにする

受講者の集中力の維持というのは普段のリアルな場での研修でも講師は心がけることですが、普段の研修以上に気を配らなければならないことは間違いないことです。

4.講師と受講者の間で空気感を共有しにくい。それにより関係構築がリアル研修と比較して時間がかかるのではないか?

受講者イメージ

この感覚は伝わりにくいかもしれませんが、講師と受講者の間の空気感と言うのは本当に影響の強いものです。オンラインの商談においてもよく言われますが、すでに関係性ができている人同士のコミニケーションはオンラインでもあまりオフラインと変わらないやりとりができる傾向にあります。

一方、初対面のコミニケーションはオンラインとオフラインでずいぶんと勝手が違います。これは一言で言うと打ち解けにくいと言う事です。関係構築を短い時間で行い、より深いコミニケーションの時間を多くすると言うのは研修を成功させる上で非常に大切なことなのですが、これをスムーズに活かせるためには何らかの手が必要となってきます。

今回の研修では、出来る限り初期に講師と受講者一人一人が対話をする時間を盛り込み、その関係構築をしやすくしました。具体的には以下のようなことです。

  • 研修開始前に受講者入室時に講師から各自に「挨拶+α」で話しかける
  • 研修冒頭の自己紹介を全員におこなってもらい、全員に講師からコメントする
  • 講義中にも名指しでここまでの感想を尋ねる時間を取り入れる

5.講師の講義はプレゼンの模範でもあるがその姿を見せにくい(スライド共有すると講師の話す姿が小さくしか表示されない)。どのように見せるか?

今回はプレゼンテーションの研修ですので、講師が模範をしっかりと見せると言う事は極めて重要なことです。その姿を大きく見せられないのは受講者にとってひとつの機会損失なので、なんとかしなければなりません。

そのための方法は原始的なのですが、スライドの画面共有をこまめに切り大画面で顔を見せると言う方法です。これは実際に姿を見せると言うだけではなく、講師が受講者に姿を見せようと気にしていることを気にかけていることが伝わることも1つのサブ効果として見込まれました。

例えば普段のリアルの研修でもスライドにない話をするときに画面をブラックアウトしたりするのに近い話です。受講者はこの辺の講師の工夫をよく見ていて、心の扉が開いたり閉じたりします。

6.通信量負担を下げるために受講者のカメラ・マイクを切ると受講者の反応が見えない。受講者の理解が追い付いてこれない状況を察知することはできるか?

前述したとおり今回は講義中受講者のカメラをオフにしていました。あとノイズを防ぐためマイクも同様にオフでした。受講者の反応が見えないことは講師にとってもやりにくいことですし、何よりも受講者にとって自分が置いてけぼりのまま進んでいくと言う不安を与えるかもしれません。

ですのでかなりの高頻度で「ここまでご不明な点はないですか?」と言う問いかけを多数入れました。ですが、場の空気を読む受講者はもしも分からないところがあったとしても「わかりません」とは言いにくいため、少し工夫をする必要があります。

今回の研修では「不明点がなければ、チャットで【大丈夫です】と入力してください。不明点があれば音声をオンにして質問をしてください」と伝えました。

そうするとわかった場合でも「わかった」という合図を送ることになり、1つの小さなコミニケーションが発生します。この小さな1歩が関係構築に小さなプラスの効果を積み重ねました。

そして不明点があるときに質問のしやすさは普段の研修よりも高かったように感じます。その証拠として、普段の研修よりもたくさんの本質的な質問が出ていたからです。

7.正直な話、受講者のカメラとマイクが切られている状態での講義は壁に話しているみたいでやりづらい。どうするか?

正直、反応がまるで見えないと言うのはやりにくいです。これに対する対策は、講師がなんとか頑張ると言う選択肢を取りました。我々はプロなのでここはやり切るのみです。

8.グループワークの際、全体を見渡すことができない。スムーズにいっていないグループをどうフォローするか?

現時点(2020年4月)でTeamsにはブレイクアウトセッションの機能がなく、ZOOMに比べて小グループに分かれてのディスカッションが進めにくいのが現状です。これに対しては今回は2つの解決策を練りました。

  1. そもそも小グループに分かれて発表するのではなく、全体の中で一人一人が発表する時間を多くする
  2. インストラクションを極力シンプルに伝えられるようにワークの構成を練り直し、グループワークに分かれたと受講者間で迷うことが少なく設計する

ワークのインストラクションが長くなるとそもそもそれが覚えていられないためシンプルに解説する必要がある。一方でシンプルすぎるが故に言葉足らずにならないようにしなければならない。そのトレードオフのところを実現するために、そもそものやるべきことをシンプルにしなければならない。ここは力の見せ所でした。

オンラインでの研修を終えて

今回はこのような形で対策を打ちましたが、事前の入念な準備イメージングのおかげで通常のリアルの研修と比べて遜色のない成果を得られたと感じています。

ただ一方でこうしたオンラインの研修はまだまだ発展途上にあります。弊社においてもこの成功例からのハウツーの水平展開、そしてさらなる成功方法の開発に努めて参ります。