今や教育系youtuberとして大活躍していますが、この記事を書いた数年前から私は中田敦彦氏のプレゼンには強い関心を抱いており、プレゼンの専門家としていろいろと研究をしてきました。
今回紹介するのはその分析記事なのですが、改めて今読んでみても全く内容が古びていないと思い、改めて共有したいと思います。
プレゼン力が優れていると感じたきっかけ
お笑い芸人は、みなさんトークが上手。
その中でもお笑い好きを自認する私が注目しているのが、オリエンタルラジオの中田敦彦さんです。
ひと口に「喋りがうまいお笑い芸人」といっても、話題を振られたときの咄嗟の切り返しがうまい人や、バラエティ番組での司会進行が上手な人など、人によってそれぞれ得意分野は違ってきます。
中田さんの場合、特に優れているのはプレゼン力です。
彼のプレゼン力が遺憾なく発揮されていたのが、「しくじり先生 俺みたいになるな!!」というテレビ番組でした。この番組では「しくじり偉人伝」といって、歴史上の偉人がなしとげた偉業としくじり(失敗)を講義形式でプレゼンするコーナーがときどき放映されていました。
このコーナーの講師を務めていたのが中田さんでした。私はこのコーナーにすっかりはまってしまい、わざわざ録画予約をしていた
ほどです。
教養バラエティとして面白かっただけでなく、彼が駆使するプレゼンテクニックの中には、私たちがふだん行っているビジネスプレゼンにも活かせそうなものがたくさんあったからです。何度も番組を再生しては、「これは参考になる!」と思ったテクニックをノートに書き留めておいたほどでした。
では中田さんのプレゼンのどんなところが具体的に優れているのか。
「しくじり偉人伝・伊能忠敬編」の回を取り上げながら分析したいと思います。
中田敦彦のプレゼン力(1) 聴き手の感情を大きく揺さぶるトーク術
まずは「しくじり偉人伝・伊能忠敬編」の回での中田さんの次の発言を読んでください。
伊能忠敬というと、江戸時代に日本全国を測量して歩き、日本地図を作成した人として有名ですが、元々は漁師の子どもに生まれました。そして17歳の時に商家の婿養子になります。
といっても伊能は商売に興味があったわけではなく、子どもの頃から天文学者になることを夢見ていました。商家に婿養子に入ったのは、いわば成り行きでした。
ところが伊能は商人として大成功を収めます。
先に挙げた中田さんの発言は、このときの大成功について説明したものです。
もしこのときの伊能の成功について、普通にプレゼンをするならば、「伊能は商家の婿養子に入り、今の金額でいうと35億円もの売上げを稼ぎました」といったように、事実を淡々と説明するようなものになるでしょう。
聴き手は「ふーん、そうなんだ」と多少の興味は持ってくれるかもしれませんが、大きな驚きを与えることは難しい。
一方中田さんは、まず聴き手に
と問いかけます。
すると聴き手は「そんなに簡単なものではないだろうな」と思うはずです。
そこで中田さんはこう切り返します。
聴き手に問いかけ、考えさせた上で、聴き手の予想とは違う答えを言う。
聴き手は「えっ、そうなの!?」と感情を大きく揺さぶられます。
そしてこう思うはずです。「その話、もっとくわしく知りたいな」と。
意外な答えを聞かされたことで、伊能忠敬に対する興味が俄然湧いてくるのです。
この中田さんの「聴き手の感情を大きく揺さぶるトーク術」は、もちろんビジネスプレゼンでも使えます。プレゼンの序盤でこのテクニックを用いれば、聴き手の興味関心をぐっとこちら側に惹きつけたうえで、本論に入ることが可能になります。
中田敦彦のプレゼン力(2) 卓越した比喩力
中田さんのプレゼンでは、比喩のうまさも際立っています。
例えば伊能が商売で成功した理由を述べた部分。
伊能家は千葉の佐原(現在の香取市)にあり、近隣にお米やお酒を売って商いを成り立たせていました。そんな中で伊能は、江戸は慢性的に米不足であり、米価が高いことに目をつけます。そこでお米とお酒を船で江戸まで輸送して高く売ることで、財を成したのです。
このことを中田さんは次のように表現します。
言い得て妙です。
江戸時代の話は、現代人の感覚からするとちょっとピンと来ない面があります。
それを「2代目がネット販売に手を出して、それで当てたみたいな」というように、現代の身近な例に喩えることで、「ああ、そういうことね」と聴き手の腑に落とすのです。
ほかにも中田さんは、伊能の日本地図作成の事業を「ひとりGoogle」と表現したり、地図づくりのために50歳を超えてから旅を始めた伊能のことを「日本一周男のセカンドライフぎんぎん伝説」と名付けるなど、「うまいな」と感心する表現を随所に使っていました。
中田さんのプレゼンは、卓越した比喩と表現の宝庫です。
中田敦彦のプレゼン力(3) 聴き手自身の人生に結びつけて語る
伊能忠敬のすごいところは、それまで築きあげてきた地位や名誉を投げ打って、50歳になってから江戸に行き、ゼロから天文学の勉強を始めているところです。さらには55歳のときに地図作成のために測量と天体観測の旅に出ます。そして73歳で亡くなるまで、後半生のすべてを旅と測量と地図作成に注ぎました。
当時の平均寿命から考えると、とんでもないことです。
彼には日本地図づくりだけでなく、測量や天体観測を通じて、当時はまだ定かではなかった地球の大きさを知りたいという壮大な夢がありました。
そして3万9852kmであることを導き出します。これは現在判明している実際の地球の大きさとは、わずか150kmの誤差しかない
精緻なものでした。
そういう意味では伊能の後半生は、最後まで夢を追い求め続けることが幸せなものだったと言えます。
ただしこういう歴史上の偉人の人生を聞かされても、普通だと聴き手は「ふーん、すごい人だったんだな」といった程度の感想で終わってしまいがちです。
そこで中田さんはプレゼンの最後に、偉人の人生を聴き手自身の人生に結びつけて語る言葉をきちんと用意します。
それはこんな言葉です。
こうした言葉を加えるだけで、聴き手は伊能の存在をより身近に感じるし、伊能の生き方を参考にしながら、自分の生き方を考えようとします。
このテクニックも、ビジネスプレゼンで十分に使えます。
例えば単に商品の導入事例を語るだけではなくて、「みなさんも、この会社と同じような課題に直面することはありませんか? そんなときはどうしていますか?」というふうに、聴き手自身の課題に結びつけて語りかけます。
すると聴き手は、その商品や導入事例のことをより身近に感じられるようになるのです。
中田さんのプレゼンをよく観察・分析すると、聞き手の心をわしづかむテクニックが満載です。
今後も中田さんからは目が離せません。
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。