from 西野浩輝

優れたストーリーの条件とコアとなる技術

前回のコラムでは、プレゼンテーションでストーリーを語る際に「どんなストーリーを選べばいいか?」についてお伝えしました。

「実例ストーリー」と「妄想ストーリー」の2つをお勧めしましたが、覚えていただいてますでしょうか?(その時の記事はこちらから)

簡単に振り返ると・・・。

「実例ストーリー」は、実際に現場で起こった事象を物語として語るもの。そして、「妄想ストーリー」は、「自社の取り組みが人々にどう貢献し、どう救うのか?」を妄想や想像を膨らませながら語るというものでした。

その上で、今回は「選んだ題材をどのように語ると効果的か?」という、いわばストーリーの展開や表現における方法論を紹介したいと思います。

まずはあなたに質問です。
「印象的なストーリー」を1つ思い出してください。

プレゼンやスピーチであればベストなのですが、すぐに思い出せない場合は小説などでも構いません。

それはなぜ印象的なのでしょう?

例えば以下のようなものが挙がったのではないでしょうか?

・聞いていて(or 読んでいて)シーンが頭にありありと浮かぶ
・物語がダイナミックに展開し、どんどん引き込まれる
・感情が強く動かされる
・エンディングが印象的で、いつまでも心に残る

これらは「優れたストーリーの条件」とも言えます。

そして、それを実現するコアとなる技術が「SMV理論」と「仮想敵」と私が呼んでいるものなのです。

それぞれの解説の前にまずは、前回ご紹介した「実例ストーリーの例」をご覧ください。

というのも、この例には今からご紹介する「SMV理論」と「仮想敵」の技術がふんだんにちりばめられているからです。
実例ストーリーの例(バレーチームのストーリー) 

SMV理論で迫力とリアリティを感じさせる

「SMV理論」とは、Situation(状況)、Movement(動き)、Voice(声)の頭文字をとったものです。

まずSituationから。

Situation

これは、状況に関する5W1Hを具体的に語るテクニックです。

つまり「どんな場所で、誰が登場し、何のために、何をするのか?」を描写する。

たとえば上記バレーチームの例でいうと、「営業の田中君」「50代後半のシングルファーザーのお客さん」「バレーボールをしている娘さん」「商談場面での会話」がそれにあたります。

そうすることで聞き手の頭の中に「絵」が浮かび、そのシーンに入っていく準備ができるのです。

次がMovement。

Movement

これは、登場人物や状況が動いているさまをありあり描写することです。

例で言うなら、「バレーチームの広報に直接掛け合う田中君の奮闘状況」や「涙を流したAさんの姿」などがそれに相当します。

Situationが静止画なら、このMovementは動画のイメージです。

最後が、Voice

Voice

これは、登場人物のセリフを再現するテクニックです。

例においては、当然ながら「田中君とAさんの会話シーンの再現」です。

さらにこの「Voice」には、実際のトークだけでなく「登場人物の心の中で発する声」の表現も含めるとより応用範囲が広がります。

「やばい、遅刻しそう!」、「いったいどうすればいいのか?」等のセリフで表現したほうが、「その時私は焦っていました」と説明するよりも感情がダイレクトに伝わります。

このように、「トークの再現」「心の声の再現」の両面による「Voice」のテクニックによって、場面のリアリティや迫力がより伝わるようになります。

この「SMV理論」を活用する際に大事なポイントがあります。

それは、「1事例につき、30秒は語る」というもの。

私の指導経験上、多くの人は事例を語る時間が短すぎます。少し長めに語ることで、はじめて聞き手は頭に場面が浮かび、ストーリーに入っていくことができるのです。

仮想敵により聞き手を引き込む

2つめの効果的な方法論が、「仮想敵を描く」というものです。

そもそも、人は誰でも「正義によって強大な敵を倒すストーリー」が大好きです。
以前、大ヒットしたドラマ「半沢直樹」がその典型と言えるでしょう。

ただし、多くのビジネスシーンで「本当の敵」を見つけるのは難しいし、場合によっては反感を買う恐れがあります。

たとえば、自社の競合を「敵」として描くのは上記の理由でお勧めしません。

だからこそ、「仮想の」敵を見つけるのです。

バレーチームの例における「仮想敵」は「娘さんと苦労人である父の夢を阻む世の中の宿命」がそれに相当します。

このように「仮想敵」を明確にすることで、聞き手が「何とかなったらいいのに!」と感情移入し始めます。

そしていつのまにかストーリーに引き込まれていきます。

その上で「仮想敵を倒す」という展開に持っていく。

最終的に聞き手は「良いストーリーを聞けた」という満足した気持ちになります。

最後は一般化して締める

「SMV理論」と「仮想敵」をコアにストーリーを語ったら、最後にメッセージで締めることが必要です。

バレーチームのストーリーにおいては、「寄り添い、考え抜き、あらゆる手を尽くすことを通じて、真の顧客貢献をせよ」がそれに相当します。

このように一般化してまとめることで、汎用性が生まれます。

そうすることで、聞き手は学び・教訓としての「持ち帰り」を得ることができ、自分自身のいろいろなシーンで適用することができるのです。

「SMV理論」と「仮想敵」

この2つを活用し、ストーリー語りの名人を目指してください。

西野浩輝写真マーキュリッチ代表取締役
西野浩輝
「人は変われる!」をモットーに年間150日の企業研修をおこなう教育のプロフェッショナル。トップセールス・経営者・外資系勤務など、これまでの自身の経験を活かして、グローバルに活躍できるプレゼンター人材の輩出に取り組んでいる。
西野著書写真

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