スピーチコンテストへの挑戦から得た大きな学び

プレゼンテーションの専門家が今さらスピーチコンテストに出場した理由。そして、そこから得た学びについて共有します。

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from 西野浩輝

 スピーチコンテストにチャレンジした理由

私は講師業につくより前から、あるスピーチサークルに入っています。Toastmastersという世界規模の英語スピーチクラブです。

入会した15年前は趣味としてだったのですが、それが本業(プレゼンの指導家)となり今に至ります(笑)

このToastmastersでは年に1回、日本一を決める大型のコンテストがありまして、今年久々ほぼ10年ぶりにこれにエントリーしました。

今回エントリーを思い立ったのは、何か大きなチャレンジを自分に課したかったから。

プロの立場にいると「優勝して当然。しなかったら恥」みたいな見られ方をして、逆にチャレンジしにくかったりするのです(笑)

ただ実際に「優勝して当然」の大会かというと、まったくそうではないのです。

むしろスピーチのプロや英語指導のプロ、ネイティブのプロスピーカーがゴロゴロいるような場で、まさに猛者揃い。

そのなかで結果にこだわることが今回の自分のチャレンジだと決意したのです。

 最大のライバルに勝つために

先ほど”猛者揃い”と表現しましたが、やはり優勝候補のライバルというのがいまして、それが過去2回の日本チャンピオンに輝き、世界大会への出場経験もあるアメリカ人のRです。

長年の付き合いなのですが、彼のスピーチは本当にうまい。彼にかかれば、ほんの些細なでき事もひとを笑わせ感動させる名スピーチに変身してしまう。

1回戦を勝ち抜き、迎えた2回戦で彼と直接対決が決まりました。勝ち進むためにはここが正念場です。

そして一回戦を勝利した自分のスピーチを見直したとき、ふと疑問がよぎりました。

「この内容で、本当にRに勝つことはできるか?」

自分のなかから返ってきた答えは「No!」
自分でもうっすら気付いていたのです。十分な仕上がりではないと。

ただ勝つだけでなく、自分と対峙して自分とコンテンツを磨くためにエントリーしているのです。ここで妥協するわけにはいきません。

私はスピーチ原稿をイチから練り直すことに決めました。

そしてこれが苦難のスタートだったのです。

 スピーチを作り上げる苦悩と葛藤

ネタは決まっていました。私の人生でもっともインパクトがあった体験。

会社員時代に受けたクビ宣告からの逆転劇です。

一回戦では勝てたものの、料理の仕方に不満が残りました。今回はそれをどう一流の料理につくりあげるか?

しかし、書き直せども、書き直せども、満足な仕上がりにならない。むしろ初回を下回る勢いです。

「あれ?スピーチつくるのって、こんなに難しかったっけ?」

まるでピッチャーがスランプでピッチングフォームを忘れてしまうかのように、私もスピーチをつくれなくなってしまいました。

そこから2週間、書いては消し、書いては消しの繰り返し。いつのまにか殴り書きのメモ用紙が、書籍1冊分ほどの厚さになっていました。

にも関わらず頭の中はごちゃごちゃ。一瞬「もう、一回戦で勝ったときのネタでいいんじゃないか?」とあきらめ心が顔を出します。

そのたびに「いや、そんな中途半端なことがしたくてエントリーしたんじゃない!」と弱い自分を制する。

そんなことの繰り返し。ただ時間だけが過ぎていきます。気付けば、本番前日になっていました。

 とらわれていた足かせに気づいた

完全に行き詰った私は、何とか打開策はないかと思い、過去の名スピーチにヒントを探し求めました。

スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業式で行った「Stay hungry, Stay foolish」。世界一のスピーチだという人も多い傑作です。

このスピーチのスクリプト(原稿)を改めて眺めてみました。すると、以下の一文が目に飛び込んできたのです。

「もし今日が人生最後の日だとしたら、今からやろうとしていたことを行うだろうか?」

これを読んだ瞬間、自分に向けた問いが頭に浮かびました。

「もし明日が人生最後の日で、今回のスピーチを自分の子供たちに残すとしたら?」「これは自分の人生の集大成になるような作品なのか?」

そうすると、すべての謎が解けました。自分は、Rに勝つことに目を奪われていて、いつの間にか勝つためのスピーチを目指していたと。

一生でただひとつ、後世に残すメッセージを選ぼうとはしていなかったと。

その後は早かったです。1時間ほどで一気に原稿を仕上げ、あとはリハーサルを行うのみ。当日の朝にリハーサルを40回ほど繰り返して、本番に臨みました。

 コンテストの結果は・・・?

結果はどうだったか?

自分で言うのもなんですが、これまでで最高の英語スピーチができた実感があります。以下がその時の映像と、日本語訳です。

▼映像

▼日本語訳

で、コンテストは勝ったのか?

なんとも間抜けな結末なのですが、タイムオーバーで失格になってしまいました。

聴衆の反応がいつも以上に良かったこともあり、熱が入ってしゃべりすぎました(笑)

いまだからこそ笑って話せる話ですが、当日は相当落ち込んだものです。

自分なりに「これまでのスピーチ人生を代表するにふさわしい」と思えたからこそ、
まわりからの評価もほしいというのが正直な気持ちでした。

苦しみの対価として学んだこと

結果は残念でしたが、本来の目的通り、大きな学びを得ることができました。

ひとつは、人の心を打つストーリー展開について理解を深められました。もともと専門領域のひとつですが、それを進化させられました。頭の中にあるフレームワークの再現性が高まったというイメージですね。

もうひとつがもっと大きいのですが、プレゼンをつくる苦悩を強く体験できたこと。より高みを目指すうえで、どのような葛藤があるのか?どんな風にあきらめたくなるのか?そしてその葛藤・苦しみ・あきらめの思いを、どう克服するのか?

正直、事業を経営しているものとして「この時間のかけ方は正しいのか?」と不安になるほど多くの時間をこのスピーチづくりにかけてきましたが、十分な対価がありました。

ここで学んだものは、クライアント企業の教育を通じて還元していきたいと思います。

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